万歩歩く時の時間・距離は?
波多野義郎(九州保健福祉大学教授)
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全米スポーツ医学会「ウオーキングと健康」シンポジウム報告 ウオーキングと健康管理 地域における健康増進のためのウォーキング指導者養成について
1.1万歩歩く時の時間・距離は?
                      
1. 「体育の日」1万歩体験ウオーク(国立競技場)について
日本万歩クラブでは毎年,国立競技場で開催される体育の日中央行事として1万歩体験ウオークを実施しています.(平成15年は調布から国立競技場までのウオークでした.)
その時に1万歩歩行における所要時間や歩行距離を測定していますが,その記録を整理し,参加者の歩行速度・歩幅などの歩行構成要素について分析した結果を以下(表1)にお知らせします.
参加者の年齢・体格をみると,成人の平均は60歳前後ですが女性の方が2歳ほど若いようです.また身長・体重から割り出した肥痩度(BMI)は男子23.3,女子22.0,子ども17.3でしたから,誠に常識的ですが子どもが一番細身で,次いで女性,そして男性と言う順番です.男子は多少体重が多めに感じられないことはない,と言って良い程度の太り方,女子は適正体重,子どもはスリムな体型でした


2. 歩行速度について
さて歩行要素ですが男性の歩行速度が速く,次いで女性,そして子どもが一番遅いのですが,奇妙なことに1万歩のための平均所要時間は殆ど同じです.毎分あたり歩数が同じであっても速度に差がつく訳ですから,速度の差の原因は歩幅です.実際,一番速かった男性群では1歩が74センチ,一番遅かった子ども群では63.5センチでした.
1万歩体験ウオークでは「マイペースで歩いて良いのですよ」といつもお話しているのですが,何となく皆さんは一生懸命の速いペースで歩いているように思われます.これは言わば「意識的速歩」とでも呼べるウオーキングを表しているのではないかと思われます.1万歩の所要時間が(平均値で見る限り)同じで,それが81―82分ということは,一般的に言えば毎分123―121歩(と言うピッチ)で歩いているという計算です.目的がなくて,緩やかなペースで歩いている時が毎分105―110歩ですから,この辺が「ゆっくり歩き」と「速歩(パワーウオーキングまたはエアロビックウオーキング)」の間の根本的な違いだといって良いでしょう.もう一度簡単にいうと,速歩は毎分120―125歩のピッチ,ゆっくりウオークは毎分105―110歩のピッチです.そして同じ速歩で歩いても,大股で歩けば速度は上がるし,反対にこのピッチ(120―125歩)でがんばって速いペースで歩こうとしても,その時に大股をキープして歩けない人もいる訳で,この時の歩幅の差が歩くスピードを支配していると言うことになります.

表1.グループ(男・女・子ども)別1万歩体験ウオークにおける年齢・体格と歩行要素

成人男子(N = 93)
成人女子(N = 125)
子ども15歳以下
(N = 48)
 平均年齢(歳)
60.3
58.0
10.4
 平均身長(cm)
164.9
153.2
143.5
 平均体重(kg)
63.3
51.8
36.2
1万歩は(分)
81.2
81.4
82.7
 分 速(m)
91.6
85.5
77.0
 歩 幅(cm)
74.1
69.4
63.5


2. 歩行者の身長は歩行内容にどんな関わりを持っているのか

 分析の対象になった人たち(被験者)の身長については既に表1に示しました.そこでその身長の高低(大柄か小柄か)が歩行の速度や歩幅にどのような関係を持っているかを示したのが図1―4です.まず図1から,男女とも年長者(例えば60歳以上)ほど小柄で,若い人(このグループの中では50歳代前半)の人が長身であることが分ります.今から40―50年前にあたる1950―60年頃は大戦後の復興期で,年々国民栄養が改善される中でこの該当の人たちが成長期にあった訳ですから,先輩たちが小柄,そして少し若い人たちが大柄という減少が起こったのでしょう.
 さて図2,3,4から小柄な人よりも大柄(長身)の人の方が歩く速度が速い傾向,歩幅が大きい傾向,そして1万歩歩く所要持間が何れも大きい傾向があることが示されます.そしてその逆もまたその通りになっていることが図5,6に示されています.
歩行速度に対しての歩幅をセンチ,身長との差,身長との比率で表すと表2及び図7,8,9のようになりました.歩く速度の差の原因は歩幅だと言う前に述べた一般的傾向に比べて,歩行速度別に分析すると,違った側面も見られます.成人男性では,分速90メートル台を越しても歩幅が増えていませんから,この辺が歩幅の上限で,それ以上のスピードアップのためには一分当たり歩数(ピッチ)を増やすことが必要になると思われます.結局のところ,歩くスピードを上げる第一のポイントは歩幅,そしてこれ以上歩幅が広がらないという時点ではピッチを上げることができるかどうかが鍵になります.
ちなみに歩幅を広げるためにはより強い下半身の筋力(殿筋群,大腿四頭筋と下腿三頭筋)が要求されます.ピッチを上げるためには肩(三角筋,上腕二頭筋)と下半身(大腿四等筋,前月茎骨筋ゼンケイコツキン)の筋力トレーニングが必要です.
歩幅を身長との差し引きで求めたところ,意識的速歩では成人男女とも身長マイナス84−94センチの中に収まっていて,歩行スピードが速くなれば歩幅が大きくなることを証明するような中味になりました.子どもの場合は成人よりも5―10センチ少ない値ですが,更に身長で10―20センチ差があることを考えると,子どもはまだ下半身の筋力が発達していないことが裏付けられます.
歩幅を身長との比率で表してみると,成人男女で身長の44−47%,子どもは40−48%と言う幅があり,15歳以下だけで一まとめにすることに多少の疑問が生じます.これは今後の課題になることと言えます.それにしても,ウオーキングの専門書の中には「歩幅が身長の50%であることが望ましい」と記述してあるものが目に付きますが,今回の所見からするとそれには多少の疑問が生じます.50%歩幅で歩く人がいないとは言えませんが,それはむしろ不自然な歩き方か,それとも余程下半身の筋群のトレーニングを積んだ例外的な人だと言えるかと思います.

表2.グループ別(男・女・子ども)別1万歩体験ウオークにおける歩行速度別にみた歩幅

 グループ
分速(m)
60-69
80-89
90-99
100以上
成人男子(N = 93)
 歩幅(cm)
70
77
78
 身長マイナス
‐88
‐88
−94
 身長比
x .44
x .47
x .45
成人女子(N = 125)
 歩幅(cm)
65
69
73
 身長マイナス
−85
−84
−86
 身長比
x .44
x .45
x .46
子 ど も(15歳以下)
(N = 48)
 歩幅(cm)
53
62
68
72
 身長マイナス
‐78
‐78
‐80
‐85
 身長比
x .40
x .44
x .48
x .46